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最高裁判所第一小法廷 昭和26年(れ)1055号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人草野豹一郎上告趣意第一点について。

昭和一七年一月二〇日商工省告示四九号が同年同月同日商工省令四号繊維製品配給消費統制規則二条に因るものであること、並びに右統制規則が昭和一六年一二月一六日勅令一一三〇号物資統制令に基ずいて発せられたものであり、右物資統制令が国家総動員法に根拠するものであることは、いずれも論旨の指摘するとおりである。しかし、昭和二一年九月三〇日を以て国家総動員法、物資統制令が失効するに当り、同年一〇月一日法律三二号臨時物資需給調整法により、商工大臣は産業の回復及び振興に関し経済安定本部総裁の定める基本的な政策及び計劃の実施を確保するために同総裁の定める方策に基いて繊維製品の割当又は配給等に関し必要な命令をなすことを得るに至ったのである。従って当時商工大臣は右臨時物資需給調整法に基ずいて前示繊維製品配給消費統制規則と同一内容の規則を制定する権限を有していたこと勿論であるから、同大臣がかかる措置に出ることに替えて既存の右統制規則を引用して昭和二一年一〇月一日商工省令四一号を以て該規則は臨時物資需給調整法に基ずいて発したものとする旨規定したからとてその立法技術としての巧拙の問題はあるとしても、右規則が臨時物資需給調整法に基ずいて発せられたものとしてその効力を持続することを否むべきいわれは存在しない。されば原判決には所論のような違法はなく論旨は採用に値しない。

同第二点について。

記録を精査すると、所論のとおり、原判決は昭和二四年一〇月一七日言渡されたものであり、右判決書末尾にはその作成年月日として同日附の記載があるに拘わらず、その原本が書記課に領収されたのは同二六年三月八日である旨、その欄外に明記せられている。仮りに所論の如く判決書の作成がその言渡後原本領収の頃まで遅延されていたものであるとしても、それは判決成立後の事由に過ぎないものであり、司法行政上の問題となることは格別、原判決の内容そのものの違法とは何等のかかわりもないのであるから、これを上告理由となすことはできない。しかも憲法三七条にいわゆる裁判が迅速を欠いた場合であっても唯それだけでは判決破棄の理由となすに足りないと解すべきことは当裁判所大法廷の判例とするところである。次に判決書にはその作成の年月日を記載すべきであり(旧刑訴七一条参照)判決宣告の日を記載すべきでないことは所論のとおりである。しかし、仮りに原審が判決書の作成を前示原本領収当時まで遅延しながらその日附をさしのぼらせて判決宣告の日を記載したものとしても、それは単に旧刑訴七一条に違反したというだけのことでありこの違法は原判決の内容そのものには何等影響するところはない。しかもかかる事態は前記刑訴の法条を誤解することに起因して生ずることもあり得るのであるから、必ずしもこれを原審の公文書偽造と目することはできない。のみならずたとい原審が故意にその作成日につき虚偽の記載をなしたとしても、それはその記載部分の無効を来たすだけのことであり原判決全部の無効を誘致するものということはできない。それ故論旨は理由なきものである。

よって旧刑訴四四六条に従い主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野 毅 裁判官 斎藤悠輔)

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